米国高配当投資は税制面で不利、という主張をよく聞きませんか?
実際、株を売って得られる利益(譲渡益)と比べると
譲渡益への課税:20.215%
日本株配当金への課税:20.215%
米国株配当金への課税:10%+20.215%、計:約28.2%
なので、この数字を見ると確かに米国株配当投資は不利と思いますね。
しかし、以下の記事で解説されているローンウルフさんの計算によるとそうでも無いことがわかりました。
この記事で説明されている方法のキモは、
・住民税申告をして所得税と異なる課税方式による住民税の課税を選択
・所得税は総合課税、住民税は申告不要
をすることによって
1. 所得税を10%にする
2. 米国現地で源泉徴収された金額分を所得税・住民税で控除させる
の2点によって、よく聞く課税率の20.315%(所得税率15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)よりも低くさせることです。
つまり【所得税率を5ポイントさげながら、控除できる外国税控除の割合を増やす】ことによって課税率を有利にさせています。
理由や詳細を知りたい方はぜひ上記の記事をご覧ください。実際に給与収入がある場合や年金生活中でのメリットが例で示されています。
本記事では、実際に筆者が資産運用のゴールとしているセミリタイア(FIRE)に関する次の疑問を検証します。
配当金を主の収入として(サイド)FIREを達成したときでも同様に課税面で不利にならないのか?
給与が主な収入でない人や、年金も受け取っていない人でも同じ方法で税率を下げられるのか?
について調べました。
高配当投資をしているとよく聞くのは米国株への投資なので、全ての受け取り配当金が米国株から得られると仮定してシミュレーションしました。
結論を先に記載すると、
一年間の収入が【米国株の配当金:360万円以内、アルバイトなどの給与収入:58万円以内】であれば、資産の切り崩しより、配当の受け取りが出来る状況でセミリタイアした方が税制面で有利です。
税制面で有利というのは「積み上げた資産を切り崩した場合に課税される税率(20.315%)よりも低い税率」であることを意味します。
この検証では3通りのシミュレーションをしてみましたが、所得税率を10%、実質的な米国に納めた税率は約1~3%程度になりました。
なお、自分自身の場合はどうなるのかを正確に知りたい方は税務署や税理士さんに確認してください。
これから、この記事で検証した結果を具体的な数字を示しながら説明します。
もしこの計算を一緒に見たい方は本文をご覧いただけますと嬉しいです!
1. 米国株高配当投資が必ずしも税制面で不利になるとは限らないこと
2. 税制面で有利になる手続きと、その計算方法
それでは具体的に見て行きましょう。
シミュレーションの設定
税金を計算するとき具体例がある方がわかりやすいと思いますので、次の3通りを考えます。
毎月の収入が配当金の20万円のみ
毎月の収入が配当金の30万円のみ
毎月の収入が配当金の30万円+アルバイト収入58万円
税金に関する前提知識
この記事で取り上げている方法では、何も考えなくても住民税は5%で固定です。
調べないといけないのは、
・所得税が10%になる?
・実質的な米国に納めた税率はどのぐらい?
の2点です。
この記事ではサイドFIREも視野に入れたセミリタイアをした時を想定しているので、
アルバイトによる【給与収入】【給与所得控除】も考慮して、所得税を計算します。
1. 配当収入
2. 給与収入
3. 給与所得控除
の3つで計算する。
次に、実質的な米国に納めた税率を計算するために【外国税額控除の限度額】【復興特別所得税の外国税額控除】を計算します。
1. 配当金を受け取る時に米国で源泉徴収された金額
2. 外国税額控除の限度額
3. 復興特別所得税の外国税額控除
の3つで計算する。
記事の本題に入る前にこれらの税金をおさらいしましょう。
給与所得控除額
2020年から給与所得控除の控除額が55万円になりました。
この額は
・時給は2020年7月現在の東京都の最低賃金である1,013円で
・一日あたり3時間勤務を週に3 日した
場合の給与収入であれば、余裕を持てる額です。
内訳は
・一日の収入:3,039円
・一週間の収入:9,117円
・一ヶ月の収入:36,468円
・一年の収入:437,616円
です。
ちなみに、一日4時間の勤務の場合の年収は【583,488円】です。
本記事の最初で書いた結論では
配当金が年間360万円、アルバイト収入が58万円なら良い
という計算でしたので、上記の計算よりも1時間少なければ問題無いですね。
所得控除
所得控除として計算できるものは基礎控除のみとします。
基礎控除:33万円
配当控除
米国株を含む外国株式では、配当控除がありません。
総合課税の所得税
所得金額(収入から控除額を差し引いた額)に応じて税率が変わります。
本記事の場合、配当収入とアルバイト収入のみを前提に計算します。
具体的な計算式は
所得金額 = 配当収入 + アルバイト収入 – 給与所得控除額 – 所得(基礎)控除
です。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円~330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円~695万円以下 | 20% | 427,500円 |
上記の式にあてはめながら、該当の税率をみてみます。
例をみましょう。
以下の3人の場合で計算します。
20万円
毎月の収入が配当金の20万円のみ

30万円
毎月の収入が配当金の30万円のみ

30万円
+
アルバイト
58万円
毎月の収入が配当金の30万円+アルバイト収入58万円
それぞれの所得金額は

20万円
207万円(=240万円 + 0円 – 0円 – 33万円)

30万円
327万円(=360万円 + 0円 – 0円 – 33万円)

30万円
+
アルバイト
58万円
330万円(=360万円 + 58万円 – 55万円 – 33万円)
になるので3人とも所得税率は10%になります。
申告不要として場合の住民税
こちらは一律で5%です。
外国税控除の限度額の計算
外国税額控除の限度額は【課税総所得】と【所得税額】を使って計算します。
課税総所得は所得税率を計算するときに使った金額です。
前の計算で示した、207万円、327万円、330万円のことです。
所得税額についてみていきましょう。
所得税額
所得税額は
【課税総所得】×【所得税率】- 【控除額】
で計算します。
すでに課税総所得は207万円・327万円・330万円と計算していました。
またこれらの額に対する税率も10%だとわかっていますが、もう一度表を以下に掲載します。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円~330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円~695万円以下 | 20% | 427,500円 |
この表に記載している控除額を上記の式にあてはめます。

20万円
109,500円(= 207万円×10% – 97,500円)

30万円
229,500円(= 327万円×10% – 97,500円)

30万円
+
アルバイト
58万円
232,500円(= 330万円×10% – 97,500円)
が所得税額となります。
外国税額控除の限度額
さて、本題の外国税額控除の限度額は以下の式で計算できます。
【所得税額】×【米国株配当金収入】/ 【課税総所得】
で計算します。
これまでの例で計算すると、それぞれの外国税額控除の限度額は

20万円
126,956円(= 109,500円 × 240万円 / 207万円)

30万円
252,660円(= 229,500円 × 360万円 / 327万円)

30万円
+
アルバイト
58万円
253,636円(= 232,500円 × 360万円 / 330万円)
となります。
復興特別所得税の外国税額控除
復興特別所得税にも外国税額控除があります。
この計算には【課税総所得】と【復興特別所得税額】を使います。
復興特別所得税額
課税総所得は所得税額でも説明したので省略しますね。
復興特別所得税額は、【所得税額の2.1%】と決まっています。

20万円
2,299円 (= 109,500円 × 2.1%)

30万円
4,819円 (= 229,500円 × 2.1%)

30万円
+
アルバイト
58万円
4,882円 (= 232,500円 × 2.1%)
です。
復興特別所得税の外国税額控除
復興特別所得税の外国税額控除は
【復興特別所得税額】×【米国株配当金収入】/ 【課税総所得】
で計算します。
つまり、これまでの例で計算すると、それぞれの復興特別所得税の外国税額控除は

20万円
2,665円(= 2,299円 × 240万円 / 207万円)

30万円
5,305円(= 4,819円 × 360万円 / 327万円)

30万円
+
アルバイト
58万円
5,325円(= 4,882円 × 360万円 / 330万円)
となります。
所得税・住民税それぞれの外国税控除の限度額
所得税からの外国税控除の限度額
この限度額は【外国税控除の限度額】+ 【復興特別所得税の外国税額控除】で計算します。
つまり、今までの例では

20万円
129,621円(= 126,956円 + 2,665円)

30万円
257,965円(= 252,660円 + 5,305円)

30万円
+
アルバイト
58万円
258,961円(= 253,636円 + 5,325円)
となります。
これらの金額が既に米国で源泉徴収されている金額より高い場合、更に住民税にも外国税控除を差し引きます。
この記事で考えていた例では、米国現地で徴収された金額が
例1:24万円
例2:36万円
例3:36万円
なので、それぞれ

20万円
110,379円(= 240,000円 – 129,621円)

30万円
102,035円(= 360,000円 – 257,965円)

30万円
+
アルバイト
58万円
101,039円(= 360,000円 – 258,961円)
の金額だけ多く支払っていたので住民税にも控除できます。
住民税からの外国税控除の限度額
この控除額は【所得税の控除限度額】の30%です。
今までの例でこの控除額を計算すると、それぞれ

20万円
38,886円(= 129,621円 × 30%)

30万円
77,389円(= 257,965円 × 30%)

30万円
+
アルバイト
58万円
77,688円(= 258,961円 × 30%)
となります。
この金額を住民税から差し引いても未だ米国で徴収された金額の方が控除された金額よりも多いですね。
制度的には残額分を翌年以降の3年以内であれば繰越できます。
しかし、この記事ではセミリタイアを前提にしているので、毎年、7万円、2万円ほどの金額を多く支払うことになります。
所得税・住民税の控除として差し引いた金額は、それぞれ

20万円
168,507円(= 129,621円 + 38,886円)

30万円
335,889円(= 258,500円 + 77,389円)

30万円
+
アルバイト
58万円
336,649円(= 258,961円 + 77,688円)
になり、米国で源泉徴収された金額の約70%、93%、93%に匹敵します。
つまり純粋に米国に納めた税率は約3%、0.7%、0.7%になります。
ここで、所得税率・住民税率を思い出すと、それぞれが10%・5%なので、この方針を採用すると、

20万円
18%

30万円
15.7%

30万円
+
アルバイト
58万円
15.7%
分しか課税されていないことになりますね。
参考までに同じ計算方法で毎月10万円を米国株配当から受け取った場合、純粋に米国に納めた税率は約97%でした。
これらの結果はいずれもこの記事で掲げた疑問である
【積み上げた資産を切り崩した場合に課税される税率(20.315%)よりも低い】
ことになります。
つまり、高配当投資でFIREを実現した人にとっても、高配当投資は税制面で有利になると結論できます。
まとめ
この記事ではセミリタイアしたとき、
資産を切り崩す vs. 配当金を受け取る
の比較を税制面で行いました。
記事の分析の主なテーマは【配当金を主の収入としてFIREを達成したときでも同様に課税面で不利にならないのか】としました。
分析した結果、年間の【米国株配当金が360万円+アルバイト収入58万円】の範囲内であれば、高配当投資でFIREしても税制面は有利になることがわかりました。
つまり、税制面に限れば
・毎月の生活費が約34万円以内で収まるなら高配当投資が有利
・収まらないなら資産を切り崩すのが有利
と言えます。
なお、投資でセミリタイアした人の中にはアルバイトではなく、ブログやアフィリエイトからの雑所得を収入としている人がいるかと思います。
このような選択をしている人も、所得金額が330万円に抑えられていれば、もちろん本記事の内容は通用します。
念のために強調しておくと、この結論は税制面での話です。
人によっては
・4%ルールなら大丈夫とはいえ、資産を切り崩すのが精神的に辛い、
・高配当は複利の効果を受けにくくて許せない
といった面で採用する投資方針もあると思います。
もしFIREを目指しているけど高配当投資が税金面で不利だという主張を聞いて投資方針を決めかねている人にとって、この記事が一石を投じることになれば嬉しいです。
sumily(スマイリー)でした!
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